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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)1969号 判決

控訴人 国 外一名

訴訟代理人 館忠彦 外三名

被控訴人 社団法人里垣小学校々地拡張委員会

主文

本件控訴はいずれもこれを棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人国指定代理人および控訴人岩間茂春代理人は、いずれも「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用、認否は、左記を附加するほかは、原判決事実摘示と同一であるからそれをここに引用する。

第一、被控訴代理人において、

(一)  控訴人国に対する関係において、被控訴人が控訴人国から本件土地を買受けその所有権を取得した時期を、従来昭和二十五年九月十五日と主張してきたが(昭和三十一年八月三十日言渡の原判決二枚目表二行目)、右日時を昭和二十八年十一月七日と訂正する。

(二)  控訴人岩間の、当審における新たな主張(後記第二の(三))に対し、右は時機に後れて提出された防禦方法であるから却下さるべきものである。仮りにそうでないとしても、本件土地を目的とする控訴人岩間と同国との間における売買契約および控訴人国と被控訴人との間における売買契約はいずれも有効であるから、控訴人岩間の主張は理由がない。即ち

(1)  控訴人国は、本件土地を普通財産として買入れたものであつて、行政財産として買入れたものではないから、控訴人岩間と同国との間における売買については、控訴人岩間の主張するような行政措置は必要ではない。控訴人国が本件土地を買受けた当時においては、甲府市の中心部まで徒歩で十数分程度、一区画にて五百坪以上に及ぶ空地は容易に求め難かつたので、控訴人国は、本件土地が甲府営林署の敷地として必ずしも適当であるとは認めなかつたが、他に適地の見当らない場合を惧れ、それに備えて、一時暫定的に、売買担当官である東京営林局長および甲府営林署長が包括的に委任されている自己の権限に基いて買入れたものであつて、それは未だ甲府営林署の敷地の用に供すと確定していたものではない。このことは、その後半歳を出でずして控訴人国が別に現在の敷地を買入れて甲府営林署の庁舎を建設した事実からみても明白である。換言すれば、本件土地を買受けた当時においては、それは未だ普通財産の域を出でないものであつて、行政財産ではないから、その買入れについて大蔵大臣との協議が欠けていたとしてもなんら違法ではないのである。

また、控訴人国が同岩間から本件土地を買受けるについて、予算措置がとられていないことは認めるが、それは当時の特殊な経済事情によるものであるから違法ではない。即ち終戦直後から昭和二十二、三年にかけてはインフレ激化の頂点であり、物価は数日あるいは十数日を出でずして二倍にも三倍にも騰貴し、繁雑な経理手続を忠実に履践していては、マツチ一本でも買入れることが不可能な実情にあつたことは公知の事実である。そこで本件土地の買入れについても、やむをえず、一時甲府営林署にあつた金を、東京営林局長、甲府営林署長がその権限内において支出処理したものであるから、たとえ正規の手続を履践していなくても、その金員支出は有効である。控訴人岩間の主張は、当時の実情を無視したものであつて失当である。

(2)  本件土地が普通財産であり、行政財産でないことは、前記のとおりである。従つて、控訴人国と被控訴人との間における売買契約についても、控訴人岩間の主張するような行政措置の必要でないことは明白である。

と述べ、

(三)  立証として、当審証人高倉岩太、同岩瀬主一の各証言、当審における被控訴法人代表者本人尋問の結果ならびに当審における検証の結果を援用し、当審において新たに提出された乙号各証の成立を認めた。

第二、控訴人岩間茂春の代理人において

(一)  原審において主張した本案前の抗弁(昭和三十一年十月三日言渡の原判決三枚目裏三行目から同丁末尾までの部分)は撤回する。

(二)  控訴人岩間が現在本件土地を占有している事実は認める。

(三)  控訴人岩間と、同国との間に、本件土地の売買契約が成立したことは認めるが、右売買は、以下に述べる理由により無効であり、控訴人国と被控訴人との間における売買もまた無効である。即ち

(1)  国が公用建物の敷地を売買によつて取得する場合には、国有財産法の規定に基づき、所定の手続を履践しなければならないのであつて、もしこれを欠くときは、その行為は権限のない者の行為として無効である。ある行政処分が有効であるがためには、(イ)その行政機関に権限があること、(ロ)その手続において重要な法規に違反していないこと、(ハ)その形式が具備されていること、(ニ)その内容が適法であること、を要するものであるが、本件の場合においては、前記四つの要件のうち、(イ)ないし(ハ)の三つの要件が欠けている。控訴人国が本件土地を買受けた目的は、甲府営林署の庁舎新築の敷地にするためであつたから、本件土地は、国有財産法第三条にいわゆる行政財産に該当する。従つて国がかかる財産を買受取得する場合には、同法第十四条、同法施行令第九条の規定により、農林大臣から委任を受けた東京営林局長が大蔵大臣にまず協議しなくてはならないものである。国の出先機関である東京営林局長もしくは甲府営林署長には、土地買受に関する抽象的権限が与えられているとしても、具体的に本件土地を買受けるについては、所定の手続を経て大蔵大臣と協議しなければならない。しかるに本件土地の売買についてはかかる協議の行なわれた事実はなく、単に一般の民間人が契約するのと同一の方法で契約されているに過ぎない。而して、右協議は具体的案件についてなされなければならないものであるから、仮に包括的に甲府営林署敷地買収の件として協議されていた事実があつても、それは適法な協議があつたものとはいえないのである。

被控訴人は、「控訴人国が本件土地を買受けた当時においては、未だこれを甲府営林署庁舎の敷地にすることは確定していなかつたから、普通財産であり、行政財産ではない。」と主張するけれども、国有財産法第十四条第一号には、「公用財産又は企業用財産とする目的で土地又は建物を取得しようとするとき」と明記してあるから、本件土地が現実に甲府営林署の敷地になつたとか、あるいはその敷地にする旨の決定がなされた場合は勿論、たとえそのような確定的な段階にまで立ち到らなくても、そのような目的を以て買受けられた財産は、行政財産に該当するものと解すべきであるところ、本件土地は甲府営林署の敷地として買入れられたものであるから、普通財産ではなく、行政財産であることは明白である。従つて、控訴人国がこれを買受けるについて国有財産法所定の正規の手続を経ていないのは重大な瑕疵であり、その買受行為は取消をまつまでもなく無効である。また控訴人国が控訴人岩間から本件土地を買受けるにつき、その代金については全然予算が計上してなく、大蔵大臣の承認も得ていなかつた。

(2)  控訴人国から被控訴人に対する本件土地の売払もまた無効である。控訴人国は「本件土地を甲府営林署の敷地に供するために買受けたが、後日その敷地としては不適当であると認められるにいたつたからこれを被控訴人に売渡したものである。」と主張するが、もし然りとすれば、それは国有財産法第十四条第四項の行政財産の用途の変更に該当するから、かかる場合には、同法第十四条、同施行令第十条の規定に基づき、東京営林局長は大蔵大臣と協議した上用途変更の手続をとらなくてはならないのにかかわらず、その手続を履践していないから、右売買処分は同法第十八条に違反する越権の行為であつて無効である。元来国有財産の管理処分権は大蔵大臣に属するもので、その大小もしくは形状により或程度の権限は各省長官或いはその出先機関に委任されているが、その目的物が本件土地のように公用建物の敷地であり、その用途を変更して民間に払下げるような場合には、その面積の大小にかかわらず大蔵大臣に協議してその承認を得べきものであるにかかわらず、農林大臣の下に属する地方営林署長が、ほしいままにその用途を変更し、民間人である被控訴人にこれを売渡すが如きことは、国有財産法の規定を無視した暴挙であつて、その売買は無効である。

被控訴人は、「本件土地は行政財産ではなく、普通財産である。」と主張するが、仮りに普通財産であるとしても、控訴人国から被控訴人に対する売渡は無効である。即ちたとえ普通財産であつても、国有財産法第二十八条、第二十九条所定の手続によらなければ、その売却はできないものであるにもかかわらず、本件土地の売渡については右の手続を履践していないから、それは越権、不適法な行為であつて無効である。

(四)  本件土地は、従来主張するとおり農地である。しかるに、被控訴人は控訴人国からこれを買受けるについて山梨県知事の許可を受けていないから右売買は無効である。即ち控訴人岩間は、控訴人国に対し本件土地を売り渡した以後も引続き本件土地を占有して耕作している。そして右占有は被控訴人から仮処分を受けるまでは適法であつたが、仮にその占有が不法であるとしても、控訴人国と被控訴人との間に本件売買契約が成立した当時において、本件土地が事実上耕作の用に供されていたとすればたとえそれが不十分な耕作であり、その耕作物が野菜や雑穀等であつたとしてもそれは農地法第二条により同法にいう農地に該当するから、その売買については県知事の許可を必要とすることは明らかである。被控訴人の主張に従えば、被控訴人はさきに法人格のなかつた甲府市里垣小学校々地拡張委員会と控訴人国との間に締結された売買契約を承継したものではなく、昭和二十八年十一月七日右契約を合意解除した上、控訴人国と被控訴人との間において新しい売買契約を締結したというのであるから、農地法の施行された後のことであり、従つて右売買については県知事の許可を必要とすることは勿論であつて、これを欠く行為は無効である。

(五)  立証として、新たに乙第四ないし第十号証、同第十一号証の一ないし四、同第十二、第十三号証、同第十四号証の一、二、同第十五、第十六号証を提出し、当審証人伊藤兼男の証言、当審における控訴人岩間茂春本人尋問の結果および当審における検証の結果を援用した。

第四、控訴人国の代理人は、被控訴人の請求原因事実全部を認め、甲号各証の成立を認めた。

理由

第一、控訴人岩間茂春の控訴(第二一三〇号事件)について

(一)  控訴人岩間が、昭和二十三年十月十日控訴人国に対し控訴人岩間所有の別紙目録記載の土地(以下本件土地と略称する)を甲府営林署庁舎建設の敷地として売り渡したことは当事者間に争いがなく、成立に争いない甲第一、同第二、同第四、同第五号証、原審における被控訴法人代表者本人尋問(第一回)の結果により真正に成立したものと認める同第三号証、甲府営材署長の印影の成立に争いがないからその余の部分も真正に成立したものと認める同第六号生、成立に争いない乙第一、同第八、同第十六号証、原審ならびに当審証人高倉岩太(原審は一、二回)、原審証人白倉真積(一、二回)、同前田利正、同伊藤春美、同早藤昌二、当審証人岩瀬主一の各証言、原審ならびに当審における被控訴法人代表者および控訴人岩間茂春各本人尋問の結果(いずれも原審は一、二回)、当審における検証の結果(但し以上の各証拠のうち、後記措信しない部分を除く)を総合すると次の事実を認めることができる。即ち控訴人岩間が本件土地を控訴人国に売り渡した当時、右土地は戦災を受けた焼土で、その約二分の一が葡萄園、約四分の一が野菜畑、残りの約四分の一が宅地になつており、控訴人岩間がその一隅にバラツクを建てて生活していたものであるが、同控訴人は控訴人国から売買代金五十万円の他に移転料として金四十万円位の金員を受取つたにもかかわらず、容易に右土地の引渡をせず、再三請求を受けた末、昭和二十四年八月に至り、ようやくその明渡をした。ところが、控訴人国においては、その後、甲府営林署庁舎は甲府市内の中央部に建設することに方針を変更し、昭和二十四年九月頃他に適当な土地を入手することができたので、本件土地は不要になつた。当時甲府市においては同市里垣小学校の通学児童が激増したので、同校隣接の私有地を買収して同校々地を拡張する計画があり、被買収者に対して換地を提供することになつたが、右換地買入の費用は地元民の負担であつたため、本件土地を安く入手してその換地に充てようとして、甲府市および右里垣小学校の関係者から控訴人国に対し本件土地の売払を懇請してきた。控訴人国においても、小学校敷地の換地としての公共性を尊重し、控訴人岩間から買受けた価額の半額である金二十五万円で譲渡することを内諾したが、さきに控訴人岩間から本件土地を買受けるに際し、もし控訴人国において本件土地が不要になつた場合には、これを控訴人岩間に優先的に売戻す旨の特約があつた(右特約のあつたことは当事者間に争いがない)ので、控訴人国はその頃控訴人岩間に対し買戻の意思の有無を確かめたところ、同控訴人は農地としての公定価額で売渡せなどと甚だ低廉な代金を主張して譲らず、買戻について誠意ある態度を示さなかつたため、控訴人国としてもその交渉を打切り、本件土地を前記里垣小学校々地拡張のための換地として売渡す方針を決定した。けれども、その校地換地の買入資金は地元負担である関係上、甲府市当局が直接これの買主となることができないため、同市に代つて右校地拡張を行なうこと等を目的として設立された甲府市里垣小学校々地拡張委員会との間に昭和二十五年九月十五日本件土地を代金二十五万円で売渡す旨の契約を締結した。ところがその後右委員会に法人格のないことが判明したので、昭和二十八年十月二十四日被控訴法人が右委員会を母体として設立されたのを機会に、同年十一月七日、控訴人国と被控訴法人との間に、さきに法人格のなかつた前記委員会が控訴人国と締結した本件土地の売買契約の買主たる地位を被控訴法人において承継する趣旨において同一内容の売買契約を締結したことが認められる。原審証人岩間定子の証言、原審ならびに当審における控訴人岩間茂春本人尋問の結果中右認定に反する部分は当裁判所の措信しないところであつて、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(二)  しかるに、控訴人岩間は、「本件土地を目的とする控訴人岩間と控訴人国との間の売買契約、ならびに控訴人国と被控訴法人との間の売買契約は、いずれも国有財産法所定の手続を履践せず、権限のない者の行為であるから無効である。」と主張するから審究する。被控訴人は、「右控訴人岩間の主張は時機に後れて提出された防禦方法であるから却下せられたい。」と主張するけれども、右主張については控訴人岩間が昭和三十四年二月十二日、同年七月二十五日及び同年九月二十六日提出した各準備書面と被控訴人が昭和三十四年六月三十日及び同年九月二十四日に提出した各準備書面の交換によつて争点を整理することができ、被控訴人申出の証人岩瀬主一を昭和三十五年一月三十日尋問することにより、右主張について判断をするに必要な証拠調を終えたことは記録に徴し明らかであり、右の経過を第一審以来の本件訴訟の経過と現在の民事訴訟の進行状態とを併せ考えるときは、控訴人岩間が前記主張をすることにより民事訴訟法第百三十九条にいわゆる「訴訟の完結を遅延せしめるもの」とは認め難いのである。

(1)  控訴人岩間と控訴人国との間の売買の効力について

営林署庁舎建設の敷地が行政財産に属することは国有財産法第三条第二項第四号、第四項、同法施行令第二条第三号の規定に照らして明白であるから、その取得については国有財産法第十四条の適用があるが、同法第九条第一、第二項の規定によれば、各省各庁の長は、その所管に属する国有財産に関する事務の一部を、部局等の長に分掌させることができ、また大蔵大臣は国有財産の総轄に関する事務の一部を部局等の長に分掌させることができるものであるところ、原審証人前田利正、原審ならびに当審証人高倉岩太(原審は一、二回)、当審証人岩瀬主一の各証言によると、本件土地買入については農村大臣の委任により東京営林局長がその権限を有し(この点は当事者間に争いがない)、同局長の指示に基づいて甲府営林署長が売買交渉ならびに契約締結の衝に当つたことが認められるから、控訴人岩間と控訴人国との間における売買契約の適法であることは明らかである。もつとも右売買について東京営林局長から、(大蔵大臣の有する国有財産総轄事務の委任を受けている)財務局長に協議した事実を認めるに足る証拠はないが、右協議は国の行政事務処理統一の必要上要請されるものに過ぎず、営林局長の行政財産取得権限を制限もしくは補充する要件たるものではないから、仮りに本件土地の売買についてその協議を欠いたとしても右売買の効力にはなんら影響を及ぼすものではないと解するのを相当とする。また本件土地買入について、当時特別の予算措置がとられなかつたことは被控訴人の認めるところではあるけれども、権限ある国の機関が締結した売買契約は、その裏づけとなる予算の有無にかかわらずその効力を有するものであるから、本件売買契約は有効であつて、これに反する控訴人岩間の主張は理由がない。

(2)  控訴人国と被控訴法人との間の売買の効力について

本件土地は、控訴人国が営林署庁舎建設の敷地として取得したものであるから行政財産であつたが、その後においてその用途を廃止したことは前認定のとおりであるから、それにより普通財産となつたものである。而して普通財産の管理処分権は大蔵大臣に属し、各省各庁の長はその処分権を有しないのを原則とする(国有財産法第八条第一項本文、第六条参照)が、国有林野事業特別会計に属する財産はその例外をなしていることは同法第八条第一項但書、同法施行令第四条第八号の規定によつて明らかである。ところで、本件土地は営林省庁舎建設敷地として買入れられたものであるから、国有財産法第三条第二項第四号所定の企業用財産に該当し、国有林野事業特別会計に属するものである(国有林野法第二条参照)。従つて本件土地については大蔵大臣には管理処分権がないのであるが、当審証人岩瀬主一の証言によれば、本件土地の売払いについては東京営林局長がその権限を有していたこと、ならびに控訴人国と被控訴法人との間における本件土地の売買は、同局長の指示に基づいてなされたものであることが認められるから、右売買は適法かつ有効なものであるというべきである。

(三)  控訴人岩間は、「本件土地は農地であるのに、控訴人岩間と控訴人国との間の売買ならびに控訴人国と被控訴法人との間の売買については県知事の許可、もしくは農業委員会の承認がないから、右売買はいずれも無効である。」と主張するけれども、成立に争いない甲第四、同第五号証、原審証人早藤昌二、同高倉岩太(第二回)、同伊藤春美、同白倉真積(第二回)、同岩間定子の各証言、原審における被控訴法人代表者(第二回)および控訴人岩間茂春各本人尋問の結果(但し以上の証拠のうち後記措信しない部分を除く)、当審における検証の結果を総合して考えると、控訴人岩間が本件土地を控訴人国に売渡した昭和二十三年十月十日当時における本件土地の状況は前認定のとおり、戦災を受けた焼土であつて、半分が葡萄園で、残りの半分が建物の所在する宅地と、半分が野菜畑であつたが、右葡萄園も野菜畑も十分に耕作されていなかつたこと、控訴人国が本件土地を買受後右建物は控訴人岩間によつて他に移転され、控訴人国において約二十坪の自動車々庫を右土地の北東隅に建設したが、昭和二十四年八月中、控訴人岩間によつて同控訴人所有の建物その他の物件(野菜等を含む)が全部取り払われて控訴人国に明渡されたため、その頃控訴人国において本件土地の周囲に鉄線を繞らして、境界を明確にすると共に、立入りを禁止したが、その後控訴人国において本件土地を農地として利用したことは全然なく、控訴人国が、法人格のなかつた甲府市里垣小学校々地拡張委員会との間に、本件土地の売買契約をした昭和二十五年九月十五日当時、および控訴人国と被控訴法人との間に右契約を承継する趣旨において新たに売買契約を締結した昭和二十八年十一月七日当時は、いずれも前記車庫の表側には取りこわした前記建物の土台石やコンクリート、水道管の切端、瓦等が散乱し、その間の空地に控訴人岩間が控訴人国の同意を得ず、不法に侵入して僅かに作つた野菜畑があり、裏側には控訴人岩間が取りかたづけた残りの、いずれも潰れかかつた名ばかりの葡萄棚と、葡萄の木が十数本あつたに過ぎないことを認めることができる、原審証人伊藤兼男、同岩間定子、同白倉真積(第二回)、当審証人岩瀬主一の各証言、原審ならびに当審における控訴人岩間茂春(原審は第一回)、当審における被控訴法人代表者各本人尋問の結果中右認定に反する部分は当裁判所の措信しないところであつて、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。右認定の事実からみるときは、本件土地は、控訴人国が控訴人岩間から買受けた当時は勿論、控訴人国が被控訴法人にこれを売り渡した当時においても農地ではなかつたと認めるのが相当であるから、右と反対の見地に立つ控訴人岩間の主張は理由がない。

(四)  控訴人岩間は、「控訴人岩間と、同国との間における本件売買においては、控訴人国が本件土地が不要になつた場合には、控訴人岩間にこれを売戻すべき特約があつたのに、控訴人国がこれを無視して被控訴法人に本件土地を売却したのは信義則に反するから、控訴人国と被控訴法人との間の売買は無効である。」と主張する。しかしながら、仮りに控訴人国において控訴人岩間の主張するような背信行為があつたとしても、これがため控訴人国と被控訴法人との間に成立した売買が当然に無効になるべきいわれがないばかりでなく、前認定のとおり、控訴人国は、本件土地が不要になつたので、控訴人岩間に対し、さきの売買価額である金五十万円で買戻の意思の有無を確かめたところ、控訴人岩間は、甚だ低廉な価額を主張して譲らず、結局話し合いがつかなかつたので、控訴人国は被控訴法人に対し本件土地を売渡すに至つたものであるから、控訴人国には毫も控訴人岩間の主張するような背信行為は存在せず、従つて控訴人岩間の右主張もまた理由がない。

(五)  以上の説明によつて明らかな通り、本件土地を目的とする控訴人岩間と控訴人国との売買契約及び控訴人国と被控訴人との売買契約はいずれも有効であつて、本件土地の所有権は昭和二十三年十月十日控訴人岩間から控訴人国に、ついで昭和二十八年十一月七日控訴人国から被控訴人に移転したものである。控訴人岩間が、控訴人国に対し、本件土地の所有権移転登記手続をしていないこと、ならびに控訴人岩間が現に本件土地を占有していることは同控訴人の認めるところであるから、控訴人岩間に対し、本件土地の明渡を求め、かつ控訴人国に代位して、控訴人国に対し本件土地所有権移転登記手続をすることを求める被控訴人の本訴請求は理由がある。

よつてこれを認容し、土地明渡を命ずる部分について仮執行の宣言をした原判決は正当である。

第二、控訴人国の控訴(第一九六九号事件)について

被控訴人の主張事実は、控訴人国のこれを認めるところであるが、右事実に基づく被控訴人の本訴請求は理由があるからこれを認容し、控訴人国に、本件土地につき被控訴人に対し所有権移転登記手続をすることを命じた原判決は正当である。

よつて控訴人らの本件控訴はいずれもこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条、第八十九条、第九十三条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥田嘉治 岸上康夫 下関忠義)

目録

甲府市善光寺町第二、一七八番

一、宅地 百二十七坪

右同所第二、一七九番

一、畑 四畝十歩

右同所第二、一八〇番

一、畑 五畝十七歩

右同所第二、一八一番

一、宅地 百五十九坪

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